三陸海岸290㎞の旅

2017.7.9~18
2017.7.9~18

1日目

 松島から漕ぎ出す。 三陸海岸へ向けて北上の海旅。どこまで行けるかは、天気と体力次第。 初日は日本三景の松島から石巻湾を横切って田代島まで。

 松島を出るまでは順調だったが、釜石湾の横断で逆潮とアゲインストの風に悩まされた。 田代島の港はキャンプができない。そう告げた村の若い人が親切に丘の上のキャンプ場まで車で運んでくれた。この島は猫の島と知られているようで、たくさんの猫を見た。テントにできた爪痕はよしとしよう。

(事前に車を1台女川へ配送しておく)


金華山の浜
金華山の浜

2日目

 昨日の若者が見送ってくれるなか田代島を離れる。今日は金華山経由、女川までだ。 11時過ぎまでは下げで、湾から沖へ向かって潮が流れる。これに乗って朝凪の間に漕ぎ進むのが得策。 黒崎からは霧が濃く視界50mほど、漁船のエンジン音に気をつけながら行く。

 金華山の浜に上げてから黄金山神社を見物。これは寄磯崎を回って女川湾へ入るための時間調整でもある。正午を過ぎれば転流し上潮は湾内に向かう。作戦成功で今日は楽に漕げた。女川原発を左に見て進み、震災の爪痕も痛々しい港へ入る。復興工事進展中。

早朝に漕ぎだす
早朝に漕ぎだす

3日目

 今日は神割崎まで30数キロの予定。女川湾を下げ潮を利して出島へ向かう。狭い水道の浜で休憩の後、さらに白銀崎を目指す。 次の休憩は黒磯を回った小さな入江。目の前には、北上川河口につながる広い湾がある。そこを横切ってウサギ島へ。追い風と追い波にせき立てられるように漕ぎ、神割崎を回り込んでキャンプ場下の浜に上げて今日の航程を終える。

(松島の車を回収、神割崎に1台配送)  

いつも朝日を見て
いつも朝日を見て

4日目

 快適な神割崎のキャンプ場を後に気仙沼を目指す。港は復興著しいものの、大きな港はカヤックには敷居が高い場所だから、そこへ入らず、大島奥の小さな浜をゴールにした。大島には本土と結ぶ橋が架けられつつあった。 今日は雨に降られ、少し波にもまれた。それでも気仙沼の西湾に入るとおだやかなものだった。

(女川の車を回収、碁石海岸へ1台配送)

奇跡の一本松
奇跡の一本松

5日目

 今日は碁石海岸まで短い航程。唐桑半島を回り込んで、巨釜半造、折石を見物。 碁石海岸に着いたと思ったら、昨日入った黒崎温泉がある港だった。ひどい誤算。碁石海岸に向ったが、途中で濃い霧に包まれる。わずかな距離だったのでコンパスも用意してなく、GPSで現在地を確かめると、ずいぶん南に寄っていた。視界100mほどの霧が晴れると、思わぬ近さに港があるではないか。碁石海岸キャンプ場に上げる。(神割崎の車回収、小白浜へ1台配送)


死骨崎という恐ろしい名の岬
死骨崎という恐ろしい名の岬

6日目  

 大船渡から唐丹湾まで5つの湾を渡り、綾里崎、首崎、死骨崎と3つの大きな岬を回った。

 南からの追い風と追い波には助けられるものの、岬先端は荒れるとのためしのとおり、カヤックはもまれっばなし。おまけに風裏の入江にさえもウネリが入って、陸地に上げて休憩もとれなかった。

 唐丹の湾に入るまで、ほぼ7時間漕ぎっぱなしは、久々にきつい航程となった。

 石巻の小白浜まで一緒に漕いだMさんは所用のためここをゴールとした。1週間の海旅おつきあいいたいたことに感謝。一抹の寂しさを覚えながら宮川さんと別れる。

(碁石海岸キャンプ場の車回収)

 翌日は荒天のため休養を兼ねて遠野村観光

7日目

 今日からは女房と二人になる。唐丹湾を漕ぎ出し、尾崎を回る。鋭く尖った岬は、わずかなウネリや風で難所になるが、この日は、ウソのようにおだやかだった。昨日、荒天を、予測して1日待った甲斐があったというものだ。

 でも、そうは簡単に行かせてくれないのが海旅。難所はこの先の三貫島だった。休憩しようと寄った岸辺は波が騒ぎ、突風が渦巻いていた。飛沫が飛びパドルがとられるほどの風だったから、瞬間的には20m/Sはあっただろう。ほうほうの体で対岸へと逃げた。

 次は両石湾を渡った大釜崎の逆潮。漕げど進まぬ状況、パドルは重く、景色は変わらない。手を止めるとたちまち目的地から離れていく。こんなときは、岸に上げて待つのが一番なのだが、時間がそれを許してくれない。

ここに泊まる
ここに泊まる

 今日中に御前崎を越えて山田湾を渡っておきたかったからである。でも、とうとう力尽きてしまった。霞霧ヶ岳の東にあたる海岸線で泊まるのに適した場所を探しながら行く。 最後の難は上陸にあった。砂利浜は、ウネリが入ってなければいい上陸地なのだが、白い波が立っている。慎重に乗り上げ場所を観察した後、一気に突っ込んだが、岸辺でグズグズしている内に、次の波にカヤックがさらわれ、足を払われた私はつんのめって倒れ、女房は向こう側で下敷きになっている。そばで見ていると大笑いものだろうが、当人たちは必死である。なんとか浜にカヤックを引きずり上げて、一段落。奮闘の甲斐あって、とてもいい泊地を得ることができた。テントを張って、ビールを飲んで、月が昇って星が降る。いい夜だった。

 

8日目

 最終目的地の宮古までわずか。この日は曇天で終日静かな海。潮流も感じるほど強くはない。昨日故障したラダーも修理した。 山田湾口を横切り、トド崎と快調に漕ぎ進む。トドとは魚扁に毛と書く。毛のある魚?うまい当て字だ。何の漁だろうか、たくさんの小舟がすごいスピードで行きかう。閉伊崎までは沖を行く。閉伊崎は碁石海岸に似た美しい入江だったので、岩の間を漕いでみた。

 霧で見えない岸を目指し、見当で漕いで行くと白い岩の浄土ヶ浜が見えてきた。遊覧船が出入りする入江に入り階段の岸に着ける。

 あと1日、北山崎を越えて行く考えがふと頭に浮かんだ。満腹のくせに最後のデザートを欲しがっている。その時、激しく雨が降りだした。これが未練を断ちきり、8日間の海旅の終わりとなった。