1日目
松島から漕ぎ出す。 三陸海岸へ向けて北上の海旅。どこまで行けるかは、天気と体力次第。 初日は日本三景の松島から石巻湾を横切って田代島まで。
松島を出るまでは順調だったが、釜石湾の横断で逆潮とアゲインストの風に悩まされた。 田代島の港はキャンプができない。そう告げた村の若い人が親切に丘の上のキャンプ場まで車で運んでくれた。この島は猫の島と知られているようで、たくさんの猫を見た。テントにできた爪痕はよしとしよう。
(事前に車を1台女川へ配送しておく)
7日目
今日からは女房と二人になる。唐丹湾を漕ぎ出し、尾崎を回る。鋭く尖った岬は、わずかなウネリや風で難所になるが、この日は、ウソのようにおだやかだった。昨日、荒天を、予測して1日待った甲斐があったというものだ。
でも、そうは簡単に行かせてくれないのが海旅。難所はこの先の三貫島だった。休憩しようと寄った岸辺は波が騒ぎ、突風が渦巻いていた。飛沫が飛びパドルがとられるほどの風だったから、瞬間的には20m/Sはあっただろう。ほうほうの体で対岸へと逃げた。
次は両石湾を渡った大釜崎の逆潮。漕げど進まぬ状況、パドルは重く、景色は変わらない。手を止めるとたちまち目的地から離れていく。こんなときは、岸に上げて待つのが一番なのだが、時間がそれを許してくれない。
今日中に御前崎を越えて山田湾を渡っておきたかったからである。でも、とうとう力尽きてしまった。霞霧ヶ岳の東にあたる海岸線で泊まるのに適した場所を探しながら行く。 最後の難は上陸にあった。砂利浜は、ウネリが入ってなければいい上陸地なのだが、白い波が立っている。慎重に乗り上げ場所を観察した後、一気に突っ込んだが、岸辺でグズグズしている内に、次の波にカヤックがさらわれ、足を払われた私はつんのめって倒れ、女房は向こう側で下敷きになっている。そばで見ていると大笑いものだろうが、当人たちは必死である。なんとか浜にカヤックを引きずり上げて、一段落。奮闘の甲斐あって、とてもいい泊地を得ることができた。テントを張って、ビールを飲んで、月が昇って星が降る。いい夜だった。
8日目
最終目的地の宮古までわずか。この日は曇天で終日静かな海。潮流も感じるほど強くはない。昨日故障したラダーも修理した。 山田湾口を横切り、トド崎と快調に漕ぎ進む。トドとは魚扁に毛と書く。毛のある魚?うまい当て字だ。何の漁だろうか、たくさんの小舟がすごいスピードで行きかう。閉伊崎までは沖を行く。閉伊崎は碁石海岸に似た美しい入江だったので、岩の間を漕いでみた。
霧で見えない岸を目指し、見当で漕いで行くと白い岩の浄土ヶ浜が見えてきた。遊覧船が出入りする入江に入り階段の岸に着ける。
あと1日、北山崎を越えて行く考えがふと頭に浮かんだ。満腹のくせに最後のデザートを欲しがっている。その時、激しく雨が降りだした。これが未練を断ちきり、8日間の海旅の終わりとなった。